郵便配達員のジョゼフ=フェルディナン・シュヴァル(1836-1924)が、たった一人で石を拾い集め、すべて手作業で築き上げたフランス南東部ドローム県のオートリ―ヴ村に現存する理想宮。1879~1912の33年間、9万3000時間を費やし完成。スケールは東西26m 、北 14m、南 12m 、高さ8~10m(※1)。古今東西の様々な建築様式やモチーフが混在し、雑誌や絵はがきを情報源に空想癖の強いシュヴァルが思い描いた夢想が表現されている。
ある日奇妙な形の石に躓いたことをきっかけに、建築や石工の知識を持たない一介の郵便配達員が建て始めた不思議な建物はやがて噂を呼び、新聞や雑誌でも紹介されるように。1905年の夏には見物人が一日平均50人も訪れていたという。シュヴァルの死後、シュルレアリスムの旗手アンドレ・ブルトンを筆頭に、“素朴派唯一の建築物”と高い評価を受け、画家のピカソやニキ・ド・サンファルも絶賛。ピカソはシュヴァルをモチーフにした素描も残している。1969年、当時の文化相アンドレ・マルローの尽力により仏政府の重要建造物に指定。現在では世界中から年間 17 万 5 千人(※2)が訪れる一大観光スポットとなっている。
※1 シュヴァル本人の証言による
※2 2017年時点での情報

▲オートリ―ヴはフランスの南東部ドローム県に位置する人口2000人弱の小さな村
ジョゼフ=フェルディナン・シュヴァル
Joseph Ferdinand Cheval(1836/4/19 -1924/8/19)
オートリ―ヴの南に位置するシャルムに農民の子として生を受ける。パン職人としての修業を経て、31歳の時に郵便配達員となり定年の60歳まで勤め上げた。配達の為に歩いた距離は1日32km、29年間で22万2720km=地球5周分にも及ぶ。理想宮の着工が43歳、完成時は76歳であった。さらに2年後には妻と自分が眠るための“終わりなき静寂と休息の墓”を共同墓地に築き始め8年かけて完成。1924年、88歳で死去した。

Chronology
1836
シュヴァル誕生
1856
パン職人見習いとして働き始める
1858
一度目の結婚、6年後に第一子を授かるがわずか1歳で死去
1866
第二子となるシリル誕生
1867
郵便配達員として働き始める
1873
妻ロザリー死去
1878
オートリ―ヴ地区の担当に就任、フィロメーヌと出会い結婚
1879
宮殿の建設を開始、同年娘のアリスが誕生
1894
娘アリス、15歳で死去
1896
郵便配達員を定年退職
1912
“シュヴァルの理想宮”完成、同年シリル死去
1914
妻フィロメーヌ死去、同年一家のための廟に着工、8年後の1922年完成
1924
シュヴァル死去、享年88歳
1969
“シュヴァルの理想宮”が仏の重要文化財として指定
1984
子孫のなかった孫娘のアリスが理想宮をオートリ―ヴに譲渡

参考文献)シュヴァルの理想宮公式HP»
岡谷公二著「郵便配達夫シュヴァルの理想宮」河出書房新社刊
カラー画像 collection Palais Idéal – Frédéric Jouhanin
モノクロ画像 collection Palais Idéal – Mémoires de la Drôme