INTRODUCTIONイントロダクション

完成まで9万3000時間!ピカソも驚嘆のDIY宮殿
寡黙で不器用な男の途方もない挑戦を支えた愛と夢想の物語
ある郵便配達員が33年の歳月をかけ、たった一人で築き上げた“シュヴァルの理想宮”。ある日偶然つまずいた奇妙な形の石に魅せられた男は、自然が作り上げた複雑な表情を持つ石を素材に、新聞や雑誌や絵葉書で見知った遠い異国の景色の断片を組み合わせるようにして、幅26m、高さ10mに及ぶ、複雑な意匠をこらした建造物を完成させた。木製の手押し車で石を拾い集め、積み上げること9万3000時間。愛娘のために世界にふたつとない“おとぎの国の宮殿”を手作りするという彼の果てしない挑戦を支えたのは、夢を信じる心と深い愛だった―。ピカソやアンドレ・ブルトンが絶賛し、フランス政府指定の重要建造物となった奇想の宮殿の誕生秘話。

人付き合いが下手で周囲に変人と噂されながら、また専門的な教育を受けることもなくまったくの独学で、途方もない夢を実現した男・シュヴァル。この風変わりな人物を見事に体現したのは、『レセ・パセ自由への通行許可証』(02)でベルリン国際映画祭最優秀男優賞を受賞した名優ジャック・ガンブラン。ひたすら頑固に信念を貫く夫と周囲の人々との間に生じる軋轢の中で、それでも彼を見放すことなく生涯にわたって傍で見守り支えた妻フィロメーヌを演じたのは、モデル・女優として絶大な人気を誇り、ルイ・ガレル監督作『パリの恋人たち』(19)での演技も印象的なレティシア・カスタ。

『エトワール』(01)などドキュメンタリー映画でも知られるニルス・タヴェルニエ監督が、ドローム県の美しい景色の中に佇む不可思議な歴史的建造物を絶妙な色彩とともに描き出し、この驚くべき実話を映画化。現地の全面的な協力を得て、撮影はほぼ全編を通して現存する“シュヴァルの理想宮”で行われた。

STORYストーリー

19世紀末、フランス南東部の村オートリ―ヴ。日々、村から村へと手紙を配り歩く郵便配達員シュヴァルは、新しい配達先で未亡人フィロメーヌと運命の出会いを果たす。結婚したふたりの間には娘が誕生したが、寡黙で人付き合いの苦手な彼は、その幼い生命とどう接したらいいのか戸惑っていた。

ある日、配達の途中で石につまずいた彼は、その石の奇妙な形に心奪われ、石を積み上げて壮大な宮殿を作り上げるという奇想天外な挑戦を思いつく。そしてそれは同時に、不器用な彼なりの、娘アリスへの愛情表現でもあった。

村人たちに変人扱いを受けながらも、作りかけの宮殿を遊び場に育っていくアリスとともに、シュヴァルの幸せな生活は続いて行くかに見えた。しかし、過酷な運命が容赦なく彼に襲い掛かるのであった…。

CAST & STAFF キャスト&スタッフ

ジャック・ガンブラン(シュヴァル役)
Jacques Gamblin
1957年生まれ。演劇学校で学び、地元の劇団で舞台役者となる。その後、パリに移り、TVドラマなどに出演。クロード・ルルーシュ監督の『Il y a des jours…et des lunes』(90)で注目を浴び、『ペダル・ドゥース』(96)でセザール賞助演男優賞にノミネート。今村昌平監督『カンゾー先生』(98)にも出演した。ベルトラン・タヴェルニエ監督の『レセ・パセ 自由への通行許可証』(02)ではベルリン国際映画祭最優秀男優賞(銀熊賞)を受賞した。 その他、ジャン・ベッケル監督『クリクリのいた夏』(99)、ダニス・タノヴィッチ監督『美しき運命の傷痕』(05)、クロード・シャブロル監督の遺作『刑事ベラミー』(09)など出演作多数。ニルス・タヴェルニエ監督とは『グレート デイズ! 夢に挑んだ父と子』(14)から二作連続でのタッグとなる。
レティシア・カスタ(フィロメーヌ役)
Laetitia Casta
1978年生まれ。15歳でスカウトされ、モデルとしてキャリアをスタート。ヴィクトリアズ・シークレットの“エンジェル”を務め国際的に注目を集める。100以上の雑誌のカバーを飾り、イヴ・サンローランやシャネルなど数々のトップブランドに起用されるスーパーモデルとして活躍。女優としても出演作を重ね、ラウル・ルイス監督『Les âmes fortes』(01)、パトリス・ルコント監督『歓楽通り』 (02)、蔡明亮監督『ヴィザージュ』 (09)などに出演。『ゲンスブールと女たち 』(10)ではブリジット・バルドー役を演じ セザール賞助演女優賞にノミネートされた。2016年、初監督作『En moi』が第69回カンヌ国際映画祭にてスペシャル・スクリーニングされる。パートナーでもあるルイ・ガレル監督・主演作『パリの恋人たち』(19)では主人公の元恋人役を好演している。
ベルナール・ル・コク(オーギュスト役)
Bernard Le Coq
1950年生まれ。1967年、『Les grandes vacances』(67)でデビュー以来、実に150本以上もの映画に出演。1992年にはモーリス・ピアラ監督『ヴァン・ゴッホ』(91)でセザール賞最優秀助演男優賞に自身初のノミネートを果たす。2003年、『記憶の森』(02)での好演が認められ同映画祭で最優秀助演男優賞を受賞。また2005年のカンヌ国際映画祭にもノミネートされた『隠された記憶』(06)にも出演。その後も『La conquête』(11)、『La dernière campagne』(13)などの作品で数多くの賞をノミネート、受賞を果たす。
フロランス・トマサン(フェリシエンヌ役)
Florence Thomassin
1966年生まれ。デビューからこれまで数多くのテレビドラマやテレビ映画に出演。『Une affaire de goût』(00)で2001年のセザール賞最優秀助演女優賞にノミネートを果たす。その他の出演作に『唇を閉ざせ』(06)、『ロング・エンゲージメント』(04)、『ジャック・メスリーヌ フランスで社会の敵No.1と呼ばれた男 Part 1 ノワール編』(09)などがある。
監督:ニルス・タヴェルニエ
Nils Tavernier
1965年生まれ。1977年、父であるベルトラン・タヴェルニエ監督の『Des enfants gates』(77)で俳優デビュー。ディアーヌ・キュリス監督『女ともだち』(83)、『パッション・ベアトリス』(87)、クロード・シャブロル監督『主婦マリーがしたこと』(88)、ミロス・フォアマン監督『恋の掟』(89)、『L.627』(92)、『ソフィー・マルソーの三銃士』(94)などに出演。その後、ドキュメンタリー作品の監督として活躍。パリ・オペラ座バレエ団の舞台裏を追った『エトワール』(01)は、日本でも大ヒットを記録する。長編劇映画は『オーロラ』(06)、 『グレート デイズ! 夢に挑んだ父と子』(14)に続き三作目となる。
Palais Idéal du
Facteur Cheval
シュヴァルの理想宮について
郵便配達員のジョゼフ=フェルディナン・シュヴァル(1836-1924)が、たった一人で石を拾い集め、すべて手作業で築き上げたフランス南東部ドローム県のオートリ―ヴ村に現存する理想宮。1879~1912の33年間、9万3000時間を費やし完成。スケールは東西26m 、北 14m、南 12m 、高さ8~10m(※1)。古今東西の様々な建築様式やモチーフが混在し、雑誌や絵はがきを情報源に空想癖の強いシュヴァルが思い描いた夢想が表現されている。ある日奇妙な形の石に躓いたことをきっかけに、建築や石工の知識を持たない一介の郵便配達員が建て始めた不思議な建物はやがて噂を呼び、新聞や雑誌でも紹介されるように。1905年の夏には見物人が一日平均50人も訪れていたという。シュヴァルの死後、シュルレアリスムの旗手アンドレ・ブルトンを筆頭に、“素朴派唯一の建築物”と高い評価を受け、画家のピカソやニキ・ド・サンファルも絶賛。ピカソはシュヴァルをモチーフにした素描も残している。1969年、当時の文化相アンドレ・マルローの尽力により仏政府の重要建造物に指定。現在では世界中から年間 17 万 5 千人(※2)が訪れる一大観光スポットとなっている。 

※1 シュヴァル本人の証言による
※2 2017年時点での情報

▼宮殿の壁面はさまざまな動植物のモチーフをはじめ夥しいまでの細部に覆われている
西側のテラスには宮殿建設のきっかけとなった「躓きの石」も鎮座。壁面には「夢は現実になる」と刻んである。
▲オートリ―ヴはフランスの南東部ドローム県に位置する
人口2000人弱の小さな村
【ジョゼフ=フェルディナン・シュヴァル】
    Joseph Ferdinand Cheval           1836/4/19 -1924/8/19
オートリ―ヴの南に位置するシャルムに農民の子として生を受ける。パン職人としての修業を経て、31歳の時に郵便配達員となり定年の60歳まで勤め上げた。配達の為に歩いた距離は1日32km、29年間で22万2720km=地球5周分にも及ぶ。理想宮の着工が43歳、完成時は76歳であった。さらに2年後には妻と自分が眠るための“終わりなき静寂と休息の墓”を共同墓地に築き始め8年かけて完成。1924年、88歳で死去した。
当時の記録写真。石の運搬に使用した愛用の木製一輪車は現在も理想宮に安置されている。

Chronology

1836 シュヴァル誕生
1856 パン職人見習いとして働き始める
1858 一度目の結婚、6年後に第一子を授かるがわずか1歳で死去
1866 第二子となるシリル誕生
1867 郵便配達員として働き始める
1873 妻ロザリー死去
1878 オートリ―ヴ地区の担当に就任、フィロメーヌと出会い結婚
1879 宮殿の建設を開始、同年娘のアリスが誕生
1894 娘アリス、15歳で死去
1896 郵便配達員を定年退職
1912 “シュヴァルの理想宮”完成、同年シリル死去
1914 妻フィロメーヌ死去、同年一家のための廟に着工、8年後の1922年完成
1924 シュヴァル死去、享年88歳
1969 “シュヴァルの理想宮”が仏の重要文化財として指定
1984 子孫のなかった孫娘のアリスが理想宮をオートリ―ヴに譲渡

参考文献
シュヴァルの理想宮公式HP
岡谷公二著「郵便配達夫シュヴァルの理想宮」河出書房新社刊

カラー画像 collection Palais Idéal – Frédéric Jouhanin
モノクロ画像 collection Palais Idéal – Mémoires de la Drôme